探偵さんは、調査を引き受けるにあたり、いくつか約束をしてほしい、と念を押される。
調査期間中、絶対に探偵を雇っていることを対象者に言わないこと。
いつもと変わらない態度をとらないこと。
聞きたいことがあって連絡した際、状況によってその進行を伝えることがまれにあるらしいのだが、その時、“黒”だったとき、たまに対象者に対して逆上してしまう人がいるらしい。
ほとんどは、調査報告書を出すまで、連絡はしないらしいのだけれど。その気持ちは分からなくもない。
私が依頼した名古屋の探偵の調査開始は、翌週の月曜日から。
わたしは週末をどきときしながら過ごした。 名古屋の探偵に実際に依頼して、いらした方がこんなにドキドキすることがあるのだろうか。私の気持ちが小さいのか?
旦那さまは珍しく、土曜日を丸1日ほど自宅で過ごした。わたしの考えていることを見抜かれたようで、落ち着かない気持ちで過ごしたけれど、その様子からバレてはいないようだ。
翌日の日曜日はゴルフバックを抱えて家を出て、そのまま帰ってこなかった。
わたしはその夜遅く、探偵さんに、朝、ゴルフバックを抱えて出て行ったまま、まだ帰っていないことだけを伝える。
名古屋の探偵のお仕事開始は予定通り、月曜日の退社時時間前の17時から、ということになった。
わたしはいつも通り、パートに出かける。
ちょっとした空き時間も事務所の備品を片づけたり、いつもはしないところの掃除までして、社内の人たちに、月曜日から頑張りすぎだと笑われてしまった。やはり、私の知らないところで、旦那の事を調べている人がいると思うだけで、なんだか自分が依頼者の癖に落ちつかない。自分が名古屋の探偵に調べられているかのように落ちつかなかった。
そのおかげで、1日が早く過ぎたような気がする。
わたしの退社時間は4時。
この日の晩ご飯もいつもより頑張ってしまった。
でもこの日は旦那さまが帰ってくることはなかった。
火曜日。
またわたしはパートに出る。
昨日掃除をしてしまったので、今日も掃除するわけにもいかない。
ちょっとした時間はいつものようにおしゃべりした。
さすがに昨日よりは落ち着いていたけれど。この日、旦那さまが帰ってきたので驚く。
ゴルフバックを車から降ろし、洗濯物の入ったバックも持って帰ってくる。
コインランドリーで洗濯してきたという着替えは、とくに柔軟剤の匂いがしなかったから、自分で洗濯したのかな?
この日は炒め物と豚汁、あと、薄揚げに納豆を入れて焼いたものを準備していた。
晩ご飯を美味しいと食べてくれるとやっぱり嬉しい。
水曜日になると、いつもと変わらない気分で過ごすことができた。
旦那さまは、調べられる終了日である金曜日も家に帰ってきた。